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2024年に創業300年を迎えた浦霞。江戸時代から明治、大正、昭和、平成と、変化と進化を続けながらたどり着いた令和時代に、新たな挑戦を始めました。浦霞発祥の「きょうかい12号酵母」の復活です。
1960年代の吟醸酒はリンゴやナシのような香りが一般的でしたが、吟醸造りの名人、平野佐五郎、重一が醸す酒はイチゴのような香りを放ちました。そのうわさが全国に広がると研究者や各地の酒蔵から杜氏らが続々と見学に訪れ、ついには佐五郎が「仕事にならない」と怒ったといいます。
この吟醸もろみから、1965(昭和40)年頃に宮城県酒造協同組合醸造試験所で酵母が分離されます。佐五郎の希望もあって当初は県内の蔵元と佐五郎の弟子たちにのみ頒布された「平野酵母」と呼ばれるこの酵母を使った酒は、鑑評会で続々と好成績を上げていきます。その実績と評判を受けて、日本醸造協会が1985(昭和60)年に「きょうかい12号酵母」として登録。きょうかい酵母に登録されることは酒蔵にとって大変に名誉のあることです。
その後、吟醸酒の嗜好も時代とともに移り変わり、より華やかな香りが好まれるようになり、「きょうかい12号酵母」も次第に使われなくなっていきます。浦霞でも、その流れをくむ新たな酵母を自家培養して使うようになりました。
しかし、「きょうかい12号酵母」は浦霞の重要な財産です。消費者の皆さんに、吟醸造りの歴史の中で浦霞が歩んできた足跡を知っていただきたいという思いから、「きょうかい12号酵母」による酒造りを現代に復活させるプロジェクトを立ち上げました。
第一弾商品として2019年に「純米吟醸 浦霞No.12(トゥエルヴ)」、続いて2021年に「純米大吟醸 浦霞No.12」を発売しました。時計の針をモチーフに数字の「12」をあしらったロゴデザインも特徴的で、復活して新たな時を歩み始めた「きょうかい12号酵母」を表現。「12」の字体は人にとって最も安定した美しい比率とされる黄金比を活用して構成し、味と香りのバランスの取れた酒質を目指す浦霞の方向性を表しています。
「きょうかい12号酵母」によって生まれる酒質は現代の嗜好に対して酸味がやや高いため、甘みが出て柔らかく仕上がるよう麹造りも工夫して、酸をあまり感じさせない酒質になる造りを行っています。その特徴的な酸味をうまく使うとキレのある酒に仕上がりますが、失敗すると酸が際立ち過ぎる。酸味のコントロールが腕の見せどころで、杜氏たちは日々酵母と格闘しています。
2023年には「木桶仕込み 生酛純米酒 浦霞No.12」をリリース。これも浦霞にとって新たな挑戦となりました。酒母を仕込む際に雑菌が繁殖しないように醸造用の乳酸を添加する造り方を速醸といい、現在の一般的な手法。それを行わずに造るのが生酛(きもと)です。蒸米の温度の下げ方や仕込み水の量、品温管理が速醸とは異なり、仕込みに難しさも伴いますが、生酛の酒母には力強さがあります。雑味となる要素を複雑な味わいに変え、膨らみも生み出し、酸のキレもありながら奥深さを感じられる酒に仕上がりました。
同じく2023年には「浦霞No.12 スパークリング」を発売。看板商品の「浦霞禅」に対して、「浦霞No.12」は商品“群”として展開し、その幹を太くしながらもう一つの柱に育てていきたいと考えています。
平野佐五郎、重一が手がけた吟醸もろみから抽出された「きょうかい12号酵母」が時代を超えて再び時を刻み始め、浦霞に新たな針路を示しています。